感染性腸炎と過敏性腸症候群の関係
過敏性腸症候群というと、器質的な異常がないにも関わらず、便秘や下痢、腹痛などをきたす疾患で、ストレスや心理的異常などが原因で起こり、遺伝も関与しているといわれております。
一方で、ノロウィルスなどによる感染性胃腸炎の後、ウィルスなどの病原体は排除されたのに腹痛などが続き過敏性腸症候群(IBS)の病態となるというケースがあり、感染性腸炎後IBS(post-infectious IBS: PI-IBS)と呼ばれています。
感染性腸炎後IBSの診断基準は下の表を満たすものになります。
報告によると、感染性腸炎にかかった人のうち10%がIBSを発症するといわれています。感染性腸炎後に発症しやすい病態については機能性下痢が最も多いですが、他にも機能性ディスペプシアや、機能性便秘を発症する可能性もあります。
感染性腸炎後過敏性腸症候群(PI-IBS)のリスク因子
最近はPI-IBSを発症しやすい方の特徴が明らかになってきており、下記のような因子がリスクになると言われております。
1.女性 |
2.若年者 |
3.重篤な胃腸炎症状 a)持続性の下痢(1週間以上) b)頻回の下痢(1日7行以上) c)激しい腹痛 d)血便 e)発熱 f)5kg以上の体重減少 g)カンピロバクター/赤痢感染 |
4.心理社会的問題 a)不安症状 b)抑うつ症状 c)身体化症状 d)多数のストレスイベント |
5.喫煙 |
6.特有の遺伝子多型 |
治療・予防
特有の治療というものは確立されておらず、通常のIBSと同様の治療が推奨されています。発症後数年間消化器症状が続き、その後徐々に改善する事が多いと言われていますが、まだ解明できていない点も多いのが現状です。
最近の研究によると、PI-IBSを発症した人では腸内細菌叢の変化があり、PI-IBSの病態に関連している可能性が示唆されております。
そしてこの腸内細菌叢の変化を防ぐためには、食物繊維を摂取することで、プレバイオティクスにより発症を抑制できる可能性があるといわれています。
(プレバイオティクス: プロバイオティクス(腸内細菌)のエサとなるもので、食物繊維やオリゴ糖など)
腸炎のときは一般的に消化に良いものを食べて腸管安静にするように言われてきましたが、PI-IBS発症予防のことを考えるとなるべく早めに食物繊維を摂取していくのが予防につながるのかもしれません。
ただ、腸炎発症中はあまり繊維の多いものをたくさん摂ると腸に負担がかかったり腹痛を起こす可能性がありますので、ある程度症状が落ち着いてからがいいかもしれませんね。
それと何より感染性腸炎自体を発症しないように予防を心がけることが大切です。特にカンピロバクターは鳥刺しや鶏のたたきなど、鶏肉の生食により感染しますのでなるべく避けていただいたほうがいいと思われます。