動脈硬化性疾患について

心筋梗塞や狭心症などの心疾患、脳梗塞などは動脈硬化性疾患と呼ばれます。動脈硬化は、脂質異常症、糖尿病、高血圧、喫煙など生活習慣病が原因となります。
まずは動脈硬化があるかどうかの評価が必要です。

診断

動脈硬化の評価については次のような検査で行います。

頸動脈エコー:IMTといわれる動脈の壁の厚みを測定します。

ABI(足関節上腕血圧比):足首と上腕の血圧を測定し、その比を計算します。通常は下肢の血圧のほうが高めになりますが、動脈硬化により血管が狭窄してくると足首の血圧のほうが低くなります。

baPWV(脈波伝播速度):血管の柔軟性や硬さを調べる検査です。足首と上腕のセンサーで、心臓からの拍動がそれらの部位を通過する速度を測定します。この速度が速いほど血管が固くなっていることを示します。

ABIとbaPWVは同時に測定することができます。測定時間は5〜10分程度で済み、痛みや負担もほとんどありません。

リスク評価

動脈硬化性疾患予防の為、危険因子をみていきます。

脂質異常症
・喫煙
・高血圧
・耐糖能異常(糖尿病)
・慢性腎臓病
・飲酒
・加齢
・脂肪肝
・狭心症・心筋梗塞・脳梗塞などの既往

上記のようなリスク要因から動脈硬化性疾患の発症リスクを評価するために、2022年のガイドラインでは「久山町スコア」というスコアリングシステムが使われています(以前は吹田スコアというものが使われていました)。

年齢、喫煙、性別、脂質異常症、高血圧、糖尿病、心臓や脳血管疾患の既往などの要因を考慮して算出され、このスコアにより10年間の動脈硬化性疾患の発症リスクが予測され、コレステロールや中性脂肪などの目標値がわかります。(40歳以上、80歳未満の方が対象のスコアリングシステムです。)
健診でコレステロールの異常を指摘されたとしても、目標値は年齢や上記のリスクにより、人それぞれ異なります。まずはご自分の目標値を調べましょう。

動脈硬化性疾患発症予測ツール(一般向け)【日本動脈硬化学会】

日本動脈硬化学会より動脈硬化性疾患発症予測のスマホのアプリがダウンロード出来ますので、よければお使いください。また、当院が診療で使用するためにExcelで作成したものもありますので(医療者向けですが)一応リンクを置いておきます。

目標値を知りたい方はクリニックで気軽にご相談ください。

治療

生活習慣の改善

喫煙

喫煙は動脈硬化性疾患のリスクになるため禁煙が推奨されます。喫煙本数を減らしたり、低ニコチン低タールたばこに替えるということではリスク低下にはつながらないと言われており、禁煙することが重要と考えます。

飲酒

アルコールは、肝臓に働きかけて中性脂肪を増加させ、その結果動脈硬化の原因になります。アルコール摂取の適量は1日25g程度とされます。

肥満

肥満やメタボリックシンドロームは脂質異常、耐糖能異常(糖尿病)、高血圧などを引き起こし、動脈硬化を促進すると言われています。BMI25以上ある方や、腹囲が男性85cm以上、女性90cm以上の方は下記の食事療法や運動療法で少しずつ改善されることを目指しましょう。

食事療法

肥満に対して、強引なダイエットで短期間で体重を減少させると、高率にリバウンドすると言われています。ダイエットは焦らず、体重または腹囲を3-6ヶ月間で3%程減らすことを目標にしましょう。

動物肉のタンパク質や加工肉を摂る代わりに一部植物性タンパク質に変えることにより死亡リスクを下げることが報告されています。また、獣肉の代わりに魚を摂ることでも死亡リスクの低下が言われています。

不飽和脂肪酸・飽和脂肪酸

飽和脂肪酸を減らしましょう。あるいは、代わりに多価不飽和脂肪酸を摂りましょう。そうすることで脂質の改善、冠動脈疾患発症予防に有効とされます。他には一価不飽和脂肪酸も、飽和脂肪酸に置き換えることで冠動脈疾患発症予防になると言われています。また、不飽和脂肪酸の中でもトランス脂肪酸はLDLを上昇させ、HDLを低下させる作用があり、冠動脈疾患のリスクになるため控えることが推奨されています。

多価不飽和脂肪酸を含むもの
  アマニ油、青魚
一価不飽和脂肪酸を含むもの
  オリーブ油、ナタネ油など

飽和脂肪酸を含むもの
  牛や豚の脂肪、バター、カップラーメンなど
トランス脂肪酸を含むもの
  マーガリン、ショートニング、食用植物油、加工油脂など

野菜・果物

食物繊維は脂質改善に有効とされており摂取が勧められます。また、野菜・果物は、食物繊維だけではなくカリウムをたくさん含んでおり、カリウムには降圧作用もあります。ただし腎臓が悪いといわれている方はカリウムが蓄積することがありますので(高カリウム血症)、摂りすぎないようご注意ください。

また、果物が良いと言っても、果糖を含む加工食品のとりすぎは逆に動脈硬化性疾患のリスクを高める可能性があるため注意してください。

日本食

米、大豆、魚が多い日本食は動脈硬化性疾患予防にはいいとされています。ただ、日本食では食塩が多くなる傾向にあり、食塩摂取量は平均10g/日程度です。高血圧の方は6g/日未満を目標にしましょう。

地中海食

古くから地中海沿岸で摂取されてきた食事形態です。地中海食は穀物、いも、豆、ナッツ類、オリーブオイル、野菜を毎日摂取し、魚や鶏肉は週1,2回、肉は月に1~数回程度という内容になります。この食事により心血管疾患を抑制したという報告があります。

運動療法

有酸素運動により悪玉コレステロールや中性脂肪を下げることが報告されています。

運動の種類としては

ウォーキング(やや速歩で)、水泳、エアロビクス、ジョギング、サイクリングなどが適しています。 これらの運動をできれば週3日以上、毎日合計30分以上を目標にしましょう。

普段の生活も、なるべく体を動かすように心がけ、座ったままの時間を減らすようにしましょう。

レジスタンス運動(いわゆる筋トレ)も脂質を改善させることが知られています。最大重量の7割位の重量で反復運動を10数回行い、1-2分休憩して3セットほど、これを週2,3回継続するのがいいと言われています。

有酸素運動、レジスタンス運動いずれも動脈硬化性疾患の予防効果がありますので、両者を併用して継続することが大切です。

薬物療法

まずは生活習慣を改善することでコレステロールの低下を試みますが、それでも改善が難しい場合は薬物療法の開始を検討します。薬物の種類により、LDLコレステロールや中性脂肪を下げる効果が異なりますので、当院でその方に合った薬剤を考えます。