過敏性腸症候群は下痢や便秘、腹痛、腹部の不快感、ガスがたまるなどの症状をきたす病態で、有病率は10%と言われており、日常診療でありふれた疾患です。
過敏性腸症候群は、通常の血液検査や内視鏡検査では腸に異常が認められません。検査で異常がなく原因ははっきりわからないものはすべて過敏性腸症候群の診断になるため、ひとえに過敏性腸症候群といっても、様々な病態があり、原因や症状、治療方法も多岐にわたり、奥が深い分野です。
過敏性腸症候群の場合、大腸内視鏡検査を行っても特に所見は見られませんが、大腸癌や潰瘍性大腸炎などの他の疾患を除外するために、受けられる意味はあると考えます。
症状により下痢型、便秘型、混合型、ガス型の分類に分けられています。原因は更にいくつもあり、順に説明します。
下痢型過敏性腸症候群
ストレスによるもの
従来からよく言われている原因で、下痢型過敏性腸症候群=ストレスと言われることも多いかと思います。
脳腸相関と言われており、脳と腸は密接に関わっております。ストレスを感じると脳が自律神経を介して腸に刺激し、腸の蠕動に異常が起き下痢になったり腹痛をきたしたりします。
治療としては原因となるストレスが除去できれば一番いいのですが、そう簡単な話ではないと思います。
薬物療法としては消化管運動機能調整薬という薬で蠕動運動を整えたり、腹痛については一時的に腸の緊張を緩める薬を用いたり、また下痢止め(止瀉薬)を用いることもあります。
胆汁によるもの (胆汁性下痢)
「特にストレスはないのに食後すぐに下痢になる」「油こい食事の後特に下痢になる」などの症状の場合は胆汁性下痢の可能性があります。別ページで解説しています。
食事の内容によるもの ーFODMAPー
最近FODMAP(フォドマップ)というワードが注目されています。FODMAPとは以下の頭文字を取ったものです。
小麦製品、玉ねぎ、にんにく、リンゴ、牛乳、ヨーグルト、はちみつ、ひよこ豆などはFODMAPを多く含む食品(高FODMAP)で、一般的に腸活などと言われ体にいいものもあります。
これらの食物は消化しにくく、未消化のまま小腸や大腸に入り、発酵してガスがたまったり、腸管から水分が分泌されることで下痢や腹痛、腹部膨満感を起こすことがあります。
高FODMAP食はすべての人に害というわけではなく人によりますので、これらの食物を食べていても腸の調子が良いという方は制限する必要は全くありません。
治療としては食事療法になります。高FODMAP食といわれるものをなるべく避け、低FODMAP食を積極的に摂ることで改善することがあります。
主な低FODMAP食品、高FODMAP食品を示します。
FODMAPの他に食べ物による下痢としては、大人になってから乳糖が消化できなくなる乳糖不耐症や、特定の食べ物に対して下痢や腹痛を起こす遅延型食物アレルギーというものがあります。
便秘型過敏性腸症候群
便秘型過敏性腸症候群については、「慢性便秘症」と臨床上区別は難しく、厳密に区別する必要はないと考えるため「慢性便秘症」の解説をご参照ください。
混合型過敏性腸症候群
便秘、下痢を繰り返すタイプです。
この場合は、もともとの腸の形態による可能性があります。
腸の曲がり角が強い方は、そこで便が引っかかりやすいため便秘となり、その引っかかりが取れた時に硬便→下痢となります。治療としてはおなかのマッサージや、便が固くならないように緩下剤の処方をしたり、、運動不足が原因となっていることも多く、運動を勧めることもあります。
ガス型過敏性腸症候群
ガスが多い、お腹が張るなどの症状が出るタイプで、上記の「食物によるもの」の可能性があります。こちらを御覧ください。
あるいは、便秘と思っていなくても便が十分出ておらず、腸に便がたまり気味の場合はガスが多くなったりやお腹の張りが出てきます。
お腹の症状でお困りの場合は一度ご相談ください。